2015 World Championship Trials - 2015年 UCI トライアル世界選手権
La Massana, Andorra - アンドラ公国 ラ・マッサーナ

2015/09/01-2015/9/5
(派遣補助事業)

 トライアルの中心地はヨーロッパである。MTBと併催となる世界選手権は2009年・オーストラリア、2010年・カナダや2013年の南アフリカ等、ヨーロッパを離れて開催される事があるが、ワールドカップは1度の例外を除いてヨーロッパのみでしか開催されていない。 強国においては多くの国内大会が開催されるし、隣国の大会に参加するという事も可能である。
 切磋琢磨、共有できる情報、年々変更されるルールへの対応。地理的に通り日本の選手にとって、そういった経験が絶対的に不足してしまう。 世界選手権がヨーロッパでの開催となるなら、体制にも大きな差が生まれる。多くのサポートスタッフや家族が帯同する事で、日常の競技大会の延長として世界選手権に挑む事が出来る。
 不利な条件がいくつもある。でも、少なくとも日本から世界選手権にエントリーした4名の選手はそれを言い訳にしない。自身に出来る事を全て整えて、開催地アンドラに向かった。

 先行隊として3週間前に渡航したエリート20の寺井一希・エリート26の飯塚隆太両名はワールドカップ、フランスカップに参戦する事で現場の空気やルール変更に伴うセクションの傾向を掴み、上り調子で世界選手権に挑む。
 後発隊としてエリート20の山田喜靖、本来はカデットカテゴリーながらも「16歳のライダーはジュニア・カデットの両カテゴリーに参加できる」という事でジュニア26に参戦の塩ア太夢が現地で合流。4名での参戦となった。

 2015年から実施された「チーム選手権」には、各カテゴリーから1名が代表として出走するというシステム。
 チーム選手権は9月1日に開催され、日本からはカテゴリーの異なる寺井、飯塚、塩アの3名が出走した。
 強国、つまり多くの選手を要する国であれば、エリート20/26、ジュニア20/26、ウィメンの5名が出走できる。各選手のポイントの合計での勝負となるので、参加人数が多い方が有利。日本は6位となった。

 3名以上の出走が条件なので参加できる国が少ないのに加えて、「本大会を前に走りたくない」と、出走をキャンセルする選手がいた事で8国の参加となったが、UCIトライアル本部としては今後のトライアルの向かうべき方向のひとつとして重要視している様に見受けられた。

 余談となるが、1セクションの上限を2分に短縮した事、これまでひとりずつの選手が走行していた決勝を3名ずつのグループでの走行とした事からも、トライアル本部がショー的な要素を強く求めていることが伺える。

 本大会はジュニア20/エリート20から始まった。
 実力と経験の不足を承知の上でこの世界選手権に臨んだ山田。予選とは言え最高難度のセクション、中には足を着いてさえ登れないポイント=跳べなければ5点というポイントが各セクションに1つ以上設置されていた事で厳しい大会となった。
 全てのセクションで5点となったが、この場に立ち他29名の選手の中で走った経験は彼が切望するトライアルの発展への尽力の為のかけがえのない経験となったことであろう。

 寺井は熟練の技術に加えて、課題であった精神面での落ち着きやコンディション作りに腐心した事もあり、予選3位と好成績を残した。
 自然地形を利用したセクションや、得意とするウェットコンディションであった事が好影響をもたらしたのは事実であるが、それにしても数々の手練れや脂ののった若手を抑えての3位は見事と言う他無い。

 翌日に開催されたジュニア26には塩アが出走。
 イギリスのジャック・カーシー、フランスのニコラ・バリー、ドイツのドミニク・オズワルド等、近年では16歳(カデットカテゴリー)ながらも世界選手権に参戦し、トップ選手と互角の走りを見せるケースも珍しく無い。今年も14名の選手の中、塩アを含む5名が16歳での出走となった。

 やはり経験の不足は否めない。ワールドユースゲームには4度の出走経験のある塩アも、緊張感の漂う世界選手権の舞台に圧倒され、本来の実力を発揮できずにいた。他16歳の選手達も苦戦する中、同じく16歳、フランスのノア・コルドナが2位に入るという健闘を見せた。
 彼自身の実力はもちろんであるが、それをいかんなく発揮できるのは多くの先達の経験をたくさん取り込める事や、ワールドカップに参加してきた経験があればこそであろう。
 塩アの結果は14位であったが、ラップを重ねるごとに点数を減らして3ラップめには14点。中堅の選手の1ラップ目の成績と同等の点数まで詰める事が出来た。 己を知り、セクションの攻略法を学べば十分に世界で戦えるポテンシャルがある。そう確信できる結果と言える。
 ユースゲームで顔を合わせた各国の選手達からは、「トムは来てるか?」「トムはどこにいる?」と声をかけられる機会が多い。 彼の人柄もあるが、ライディングを評価されてこその事であろう。
 今後の躍進が楽しみな選手の一人である。

 明けて翌日、エリート20の決勝。朝から降り続いた雨で完全なウェットコンディションの中、競技がスタート。 今年から予選通過6名を2組に分けて、3名をグループとしてセクションをひとつずつ回っていくというシステムが採用された。

 第1組が競技を終了し、寺井を含む第2組がスタート。それまでは止んでいた雨が競技中盤から激しく降り出し、第2組にとっては不利とも言える状況となった。
 それでも、第2組で走ったスペインのムスティエレスが優勝しているので、状況を言い訳には出来ない。もちろん、寺井本人にもそんなつもりは無いであろう。
 もしコンディションが違っても、これ以上の成績は望めなかったであろう。そう思わせるライディングであった。これまでの世界選手権を走った中の、最良の走りであった。

 これで5位という成績が残せないのなら、身体能力で欧米の選手に劣る日本人には何のチャンスも無いと、そう思えるに十分な走りであった。
 リザルトを振り返れば、ジュニアから上がりたてのライダーやこれまで名前を見かけなかった新興国のライダーが上位に名を連ねる。
 技術はさらに磨かれてセクションの難易度も上がるであろう。

 同等やそれ以上の日本人選手の活躍の為には、一層の努力と精進が必要になることは明らかである。何も変える事ができなければ、もう日本人選手が決勝を走る事は無いと予想される現況において、我々が進むべき確かな道標となる遠征であったと思う。

 選手達と、彼らを現地で支えた同輩と家族に最高の賛辞を、そして今日までの彼らを育てた全ての環境に、それはもちろんひとりひとりの選手や愛好家、関係者の皆様に心からの御礼を申し上げてこの遠征記をしめくくろうと思います。
 本当にありがとうございました。 (派遣選手団監督 岩佐賢一)